黒柴と暮らしていると、
「なんで今それ?」というタイミングで、
じわじわ笑いを仕込んでくることがあります。
うちの黒柴・乃亜も、そのタイプです。
激しくアピールしてくるわけでもないし、
感情が大きく表に出るタイプでもない。
どちらかというと“静かな子”なのですが、
よく見ていると、生活のあちこちにこだわりがにじんでいるのです。
今日はそんな、
乃亜の「こだわり観察記」を、少しだけ書いてみようと思います。
「散歩行く?」と聞くと、行きたいのに行きたくなさそうな顔をする
まずは、毎日の散歩から。
「散歩行く?」と声をかけると、
乃亜は一瞬だけ、わかりやすく「行きたい!」という顔をします。
目がぱっと開いて、
顔がすっとこちらを向いて、
「あ、それはさすがに行きたい」と、表情が教えてくれる。
……はずなのですが。
わたしが上着を着て、
リードを用意して振り返ると、
そこにはもう、まったく別の黒柴がいます。
「別にそんなに行きたくないですけど?」
「むしろ、できれば今日は遠慮したいですけど?」
そう言いたげな、冷静な表情。
さっきまでの「行きたい顔」はどこに置いてきたのか。
本人の中で、なにか会議でもあったのでしょうか。
こちらが「よし、行くよ」と連れて行こうとすると、
今度はまた、少しだけ抵抗の顔をします。
「えっ、今?」「今から?」「本当に?」
でも、何度か声をかけると、
少しだけ目をそらしながら、
「しょうがないなあ」とでも言いたげな顔で、そっと立ち上がる。
この一連の流れを見ていると、
「いや、あなた絶対、本当は行きたいでしょう」とツッコミたくなります。
たぶん乃亜の中では、
「行きたい」と「めんどくさい」の天秤を、
そのつど真剣に測っているのだと思います。
散歩の“モード”は日替わり。キョロキョロの日と、まっすぐの日
いざ外に出てしまえば、そこからは乃亜の世界です。
散歩のスピードは、その日によってまったく違います。
ある日は、
無性に周りが気になって仕方ない日。
一歩進んでは立ち止まり、
キョロキョロとあたりを見回し、
遠くの物音や、人の気配を細かくチェックしています。
そんな日は、
こちらの歩数に対して、前進距離がほとんど増えません。
「今日は“調査モードの日”か」と、わたしも腹をくくります。
別の日は、
目的地が決まっている日。
足取りがやけに早く、
まるで「ちょっと用事があるから急ぐわ」とでも言うように、
ズンズンと前に進んでいきます。
こちらが「え、どこ行くの?」と聞きたくなるほど、一直線。
そして、
散歩コースも、その日の気分で変わるようです。
昨日は右だったのに今日は左。
いつも行かない細い道に、
ふとした拍子に吸い込まれていく日もあれば、
逆に、
「今日はそこは絶対通りません」と、
頑固に足を踏ん張る日もあります。
同じ散歩なのに、
乃亜の“その日の気持ち”が
そっとルートに表れているのかもしれません。

甘えに来るときは、必ず“右手側”
乃亜は、わかりやすくベタベタ甘えてくるタイプではありません。
それでも、「いま撫でてほしいんだろうな」というタイミングはあって、
そういうときは、必ずわたしの右側に座ります。
リビングで座っていても、
わたしの右手がある位置を、ちゃんと計算しているかのように、
するりと右側におさまるのです。
わたしが右利きで、
普段から右手で撫でることが多いのを、
きっと見て覚えたのでしょう。
面白いのは、
左側のほうがスペースがあるときでも、あえて右側にくること。
左にはふかふかのクッションがあって、
右はテーブルの脚が近くて少し狭い。
それでも乃亜は、迷いなく右側に座ります。
「撫でられやすさ > スペースの広さ」
彼女なりの優先順位が、そこにあるのかもしれません。
冬は布団の中、夏は足元。季節で変わる“ちょうどいい距離”
寝るときの距離感も、季節によってはっきりと変わります。
冬になると、
乃亜はベッドに上がってきて、
ためらいなく布団の中に入ってきます。
布団を少しめくると、
「待ってました」と言わんばかりに滑り込み、
そのままわたしの体にぴったりとくっついて眠ります。
こちらとしては、
「湯たんぽが自分の意志で動いている」ような感覚です。
一方、夏場になると、距離の取り方が変わります。
布団には乗ってくるものの、
体が当たるか当たらないか、ぎりぎりのラインに陣取るのです。
完全に離れてしまうわけではないけれど、
くっつきすぎもしない。
「一応そばにはいるけど、暑いからね」という、
妙にリアルな温度調整。
多分、乃亜は自分のことを人間だと思っている
そんなこんなで一緒に暮らしていると、
乃亜は、自分を人だと思っているんじゃないか
という気がしてきます。
仕草も、態度も、表情も、
どこか“犬っぽくない”。
かといって、人間の言葉を話すわけでもないのですが、
こちらの言っていることは、妙に正確に理解している節があります。
「いまは構ってほしくない顔」
「なんとなくそばにいたいだけの顔」
「とりあえずそこに座っておきますね、の顔」
尾は一切動かないままなのに、
その奥にちゃんと気持ちがあるのがわかる。
こだわりは、たぶん「仲良くなるためのヒント」
乃亜のこだわりを並べてみると、
なんだかんだ言いながら、
全部「わたしとの距離の取り方」に関わるものばかりだと気づきます。
散歩に行くかどうか迷う顔も、
その日の散歩モードも、
右側にだけ座ることも、
冬と夏の距離感も、
そして、自分を人間だと思っているような態度も。
どれもこれも、
乃亜が「わたしとどう一緒にいるか」を、
彼女なりに調整した結果なのかもしれません。
黒柴のこだわりは、
時々ちょっと面倒だったり、
予想外で笑ってしまったりしますが、
よくよく観察してみると、
その子なりの「ちょうどいい」が、そこに表れている。
乃亜と暮らしていると、
そんな「ちょうどいい距離」のつくり方を、
毎日少しずつ教わっている気がします。
今日もきっと、
散歩に行く前に、一度だけ「行きたくなさそうな顔」をしてから、
しょうがないなあ、という顔で立ち上がるのでしょう。
その一瞬の表情変化を見逃さないように、
わたしもなるべく、丁寧に暮らしていこうと思います。




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