冬の山を歩いてみたい。
でも雪が積もるだけで、夏山とはまったく別ものに見えてきて、
「足元の装備、何を揃えればいいんだろう……」と手が止まってしまう人も多いと思います。
チェーンスパイク、軽アイゼン、12本爪アイゼン、スノーシュー。
名前だけ聞いても、それぞれ何がどう違うのか、最初はピンと来ないですよね。
この記事は、そんな冬山登山初心者の「足元装備、なにを買えばいいか分からない問題」を、少しでも軽くできたらと思って書いています。
難しい専門用語はなるべく置いておいて、
「こういう時は、これを持っていけばだいたい大丈夫だよ」という、やさしい冬山の入り口の話です。
① 冬山は「里山+トレースのある道」からはじめるのがおすすめ
初めての冬山登山は、いきなり本格的な雪山に挑戦する必要はありません。
おすすめは、まず標高の低い里山で、しっかりと踏み跡(トレース)がついている山からはじめることです。
雪山の難しさは、標高だけで決まるわけではありません。
同じ山でも、たくさんの人が歩いている日は道が固まって歩きやすく、
誰も歩いていない日は、一歩ごとに沈んでしまって別世界のようになります。
なので最初は、次のような条件の山が安心です。
- 標高が高すぎない里山
- 冬でも人気で、週末は登山者が多い
- SNSや登山アプリ(YAMAPなど)で、トレース情報が確認できる
こうした山なら、雪は「踏み固められた道(圧雪)」になっていることが多く、
足元装備もシンプルにスタートできます。
② 最初の一歩は「チェーンスパイク」から
冬の里山デビューで、まず一つだけ買うとしたら、
わたしはチェーンスパイクをおすすめします。
わたしが使っているのは、モンベルのチェーンスパイクです。
軽くて扱いやすく、ザックの中でもかさばりにくいので、冬の低山ではいちばん出番の多い道具になっています。
チェーンスパイクが活躍してくれるのは、こんな場面です。
- 人が多く歩いて踏み固められた雪道(圧雪)
- 緩やかな斜面が続く里山
- 朝の冷え込みで、ところどころうっすら凍っている道
ゴムを靴にかけてチェーン部分をソールに密着させるだけなので、装着も簡単。
「冬の山ってどんな感じなんだろう?」と様子を見に行くには、ちょうどいい相棒です。
ただ、氷が増えてきたり、斜度が出てきたりすると、
「ちょっと心もとないかも…」と感じる場面も出てきます。
そんなときは無理をせず、次のステップを考えます。
③ 慣れてきたら、「人が少ない里山」+スノーシューの世界へ
モンベルのチェーンスパイクで何度か冬の里山を歩いてみると、
雪の上を歩く感覚にも少しずつ慣れてくると思います。
そうしたら次のステップとして、
「人はいるけれど、多すぎない里山」に足を伸ばしてみるのもおすすめです。
そこで頼りになるのが、スノーシューです。
わたしが使っているのは、MSRのライトニングエクスプローラー。
MSRの中でも比較的軽く、深い雪の上でも沈みにくいモデルです。
ライトニングエクスプローラーには、ヒールリフターという仕組みがついています。
傾斜が続く登りでヒールリフターを立てると、かかと側が少し持ち上がり、
足首の角度が楽になって、ふくらはぎやアキレス腱の負担がぐっと減ります。
これは初心者ほど違いを感じやすいポイントで、
「まだ登れるな」「もう少し歩いてみようかな」と思わせてくれる装備です。
最初のうちは、
- チェーンスパイク(モンベル)
- スノーシュー(MSRライトニングエクスプローラーなど)
この2つがあれば、里山クラスの冬山なら、大概のところはカバーできます。
④ 滑りそうだと感じたら、「今日はここが山頂」でいい
冬の山を歩いていると、夏山とは少し違う“不安”に出会います。
それは、「ここ、ちょっと滑りそうだな…」という感覚。
そんなときに大事なのは、がんばりすぎないことです。
わたしはそういう場所に出会ったら、
おもむろにザックを下ろして、バーナーでお湯を沸かし、コーヒーを淹れます。
湯気がふわっと立ち上がるのを眺めながら、
「今日はここを山頂ってことにしよう」と決めて、そこで引き返します。
冬山は、夏と違ってピークを踏まなくていいと思っています。
途中で引き返すことは「失敗」ではなく、
ただ静かな雪のなかを楽しむ、ひとつのスタイルです。
とくに冬山登山初心者のうちは、
「夏山と違って、怖いと思ったらそこで終わりにしていい」という感覚を、ぜひ大事にしてほしいなと思います。
⑤ 経験を重ねると、軽アイゼンや12本爪アイゼンの出番が見えてくる
チェーンスパイクとスノーシューで里山を何度か歩いていると、
だんだんと、こんな場面に出会うことがあります。
- チェーンスパイクだと、少し滑りそうで不安な斜面
- 雪が少なく、氷がむき出しになっている急な坂
こういうときに出番になるのが、軽アイゼン(6本爪)や12本爪アイゼンです。
わたしは、次のような装備を使っています。
- チェーンスパイク:モンベル
- 軽アイゼン(6本爪):エバニュー
- 12本爪アイゼン:グリベル
エバニューのような6本軽アイゼンは、
チェーンスパイクでは不安だけれど、12本までガチガチにしなくてもいい、
そんな“ちょうど中間”の場面でとても優秀です。
グリベルの12本爪アイゼンは、
氷化した急斜面や、傾斜のあるトラバースなど、
「ここで滑ったら危ないな」と感じる場所で一気に安心感をくれます。
6本や12本のアイゼンが必要なケースは、
実際に冬の里山を歩いてみて、
「あ、今の場所はチェーンだけだと怖かったな」
という経験を繰り返すうちに、自然と見えてきます。
なので、最初から全部揃えようとしなくても大丈夫です。

⑥ 最終的にめざしたい「3つの足元装備」
冬山登山に少しずつ慣れてきたら、
最終的には次の3つの足元装備があると、行ける山の幅がぐっと広がります。
- チェーンスパイク(里山・圧雪・軽い凍結)
- 12本爪アイゼン(氷化した急斜面・本格的な斜度)
- スノーシュー(深い新雪・トレースのない山)
実は、6本の軽アイゼンもとても優秀な道具です。
持っていると、チェーンスパイクと12本爪アイゼンの“間”を埋めてくれて、選択肢が増えます。
ですが、冬山を始めたばかりの段階では、
「まずはなくても問題ない」とも言えます。
チェーンスパイクとスノーシューで里山を重ねていくうちに、
「今みたいな斜面用に、軽アイゼンがあるといいな」と感じたタイミングで、
ゆっくり足していけば大丈夫です。
⑦ おわりに ― 冬の山は、挑戦ではなく“静かな散歩”でもいい
冬の山は、静かで、澄んでいて、
ただ歩くだけで頭の中のざわざわが少しずつ薄れていくような時間が流れています。
でも最初の一歩には、どうしても勇気がいります。
知らない言葉や道具が増えると、それだけでハードルが高く感じてしまうものです。
そんなときは、まずチェーンスパイクをひとつ。
人気のある里山の、トレースがしっかりついた冬道からはじめてみてください。
慣れてきたら、少し人の少ない山へ。
そこにスノーシューを足してみる。
必要だと感じたタイミングで、軽アイゼンや12本爪アイゼンを揃えていく。
冬山登山は、いきなり完璧な装備や判断を求められる世界ではありません。
ゆっくり、自分のペースで、「今日はここで戻ろう」と決めながら歩いていける世界です。
もし今、雪の山を少しだけ歩いてみたいな、と思っているなら。
その気持ちを大事にしつつ、足元をすこしだけ整えて、
最初の一歩を踏み出してみてください。
あなたの冬の山時間が、静かで、心地よいものになりますように。




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